学生の頃に、とある大学の商学部に在籍していました。ビジネスのこと、経済のこと、法律のこと等がとても「面白い」と感じ、楽しく学んでいました。社会人になってからも、重めの経済書や、海外の論文なんかを楽しみながら読んでいます(変わっていますね (^^; 、奥さんからもそう言われます)

そんな私の一つの夢は、今は幼い娘たちが社会人になるような頃に、私が大好きな商学/経済学の魅力をちょっとだけ感じてもらうことです。まあ、たぶん、その夢は叶わないとも感じていますが(笑) お友達とのおしゃべり、彼氏君とのデート、楽しい映画や好きな音楽、そんな中に「経済」が入るイメージが持てないですね。

でも、そんな夢に向けて、今の世の中で起こっている商学や経済学に関係することを、未来の娘たちに語るような感じで説明していこうと思います。難しい言葉はなるべく使わず、そして、「へぇ~、ちょっと面白いかも」なんて思ってくれるような内容になるように、お父さん頑張っていきますね。

 

前置きが長くなりました。では、今回の話を始めますね。
原油価格がマイナスって、どういうこと?」についてです。

目次


・はじめに
・「原油価格がマイナス」油を買うとお金をもらえる?
・ちょっとこの先
・おわりに

はじめに

4/20に「原油価格の下落が止まらず、WTIの5月先物は4/20に一時バレルあたりマイナス37.63ドルとなった」というニュースが出ましたね。

価格が「マイナス」なので、買えばお金がもらえることになります。そんなことってあるの?って感じですよね(^^; 
でも、これにはいろいろと背景があって、異例ではあるものの「想定外」というわけではないんです。下のような感じで、ニュースの裏側を少し話していきたいと思います。

 

・「WTI」ってそもそも何だ? 実は「原油価格」って1つじゃないんです

・「5月先物」って何のこと?

・「買っている」のに「お金がもらえる」? 価格がマイナスになるってどういうこと?

完全な雑学として、のんびり読んでみて下さると嬉しいです。

WTIって何? 実は「原油価格」って1つじゃないんです

・そもそも「原油」って何?
「原油」というコトバ、「石油」とは少し異なります。原油は油田から採掘したままで、精製していない石油のことを指しています。英語ではCrude Oilと書き、Crude天然の/加工していない、Oil油、です。燃料や石油製品の原材料なので、みんながその価格に注目しているんです。

・原油価格とは?
そして、その「原油」は産油国毎に複数の価格が存在していて、一つの価格ではないんです。
代表的な価格指標は下の3つです。

・アメリカのWTI先物
West Texas Intermediateの略称です。とても重要な価格指標ですが、実は世界で算出される原油の1%くらいを扱っている価格なんです。実際に取り扱う原油量は少ないけれど、売り買いとしての取引量は多いため、重要な指標となっています。

今回の暴落は、このWTI先物価格の暴落でした。他の指標も少し見ていきますね。

・イギリスのBrent先物
イギリス北海のBrent(ブレント)油田の原油価格です。イギリスのIECフューチャーズで取引されています。世界の原油価格は、WTI先物価格よりもこちらのBrent先物価格の方が正しく表しているようだ、といった意見もあります。(今回のWTIのマイナス価格で、よりそのような主張が出てきそうですね。)

・中東諸国のスポット価格
ドバイ原油やオマーン原油価格などです。上の2つはこれからご説明する「先物」に関する価格指標ですが、こちらの中東諸国原油価格は「スポット価格」です。スポット価格とは、契約の際に当事者間で決める価格のことです。

原油価格、実はいろいろと種類がありますね。そして、今回のニュースはその中の1つWTIの価格のみがマイナスになったというニュースでした。でも、まだしっくりきませんね。

・なんで「買う」のに、お金を「もらえる」のか?
・なんでWTI先物価格に大きな影響が出たのか?

「WTIの5月先物」がマイナスとなった、というニュースの「先物」というコトバにヒントがあるんです♬

原油「5月先物」って何のこと?

・「先物」って何?
「先物取引」のことを示しています。ちょっと正確ではないのですが、ざっくりと言うと「未来の価格で取引する」ことと思って下さい。

例えば、4月の時点で「5月10日に20ドルで原油を1バレル買います」という権利があり、その権利を購入することが先物取引です。英語だと「Futures Contract/未来の契約」と言います。直感的なコトバで、とても分かりやすいですね。先物って、もうちょっと複雑なのですが、イメージはこのようなものです。

 

・そして「WTI先物」について
今回のニュースは「WTI5月先物の価格下落」ですので「今の4月から見ると未来の5月に買う原油の価格が下がった」という意味でした。

WTI先物は「ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)」という所で、取引が行われています。その取引所で、5月に買う権利を持ってる人が、お金をあげてでも、その「買う権利」を手放したくなったという意味です。

(ご参考:米エネルギー情報局(EIA : US Energy Information Administration)が定義する「先物価格」は「指定された時間と場所に指定された数量の商品を配送するために見積もられた価格」とされています。)

 

では最後に、将来の価格がなぜマイナスになったのか、その背景を説明しますね☆

「買っている」のに「お金がもらえる」?
価格がマイナスになるってどういうこと?

実際の原油は、アメリカのオクラホマ州クッシング(Cushing)で受け渡しが行われています。これからご説明することに係るので、少し脱線して「クッシング」に触れますね。

・クッシングってどこ?

貯蔵地はこのような感じです。

普通は、みんなが飛行機に乗ったり、たくさん石油製品を買ったりするので、その燃料や材料のために貯蔵タンクに入れた原油がドンドン使われていきます。

 

・コロナウイルスの影響
でも、今回はコロナウイルスのせいで、飛行機は全く飛んでいませんし、みんな家にいるので石油製品もいつもほどは使われません。そのため、今回は原油があまり使われていなくてそのクッシングの貯蔵タンクが満杯になりそうになってしまいました。来月買うことが確定してしまったら、その原油をどうするかという問題が起こりました。

そのため、「いくらでもいいし、むしろお金を払うので、5月にこの原油を買い取ってー!」となり、価格がどんどん下がりマイナスになってしまいました。貯蔵できないかもしれない大量の原油を引き受けるなんて、かなり怖いので、お金をもらったとしても買いたいと感じる人がいなくなってしまったんですね。

 

 

・ところで、どのくらい満杯なの? (詳しく知りたい方へ)
どんどんマニアックになっていきます。読み飛ばして下さい(笑)

「貯蔵量に空きが無くなっている」と書かれていますが、どのくらい空きがないのか? と気になった方へ。

実は米国のエネルギー情報局(EIA)という期間が週間統計を公表しています。そして、詳しい状況についてのレポートが4/22に公表されているんです

-原油受け渡し拠点のオクラホマ州クッシングの在庫は6/17日時点で約6000万バレル、貯蔵容量の約7600万バレルに近づいている。

-物理的に空きスペースがあるように見えますが、残り容量はすでにリース/コミットされている可能性が高いため、まだ契約を結んでいない人の使用が制限され、使う場合は高い料金の支払いが必要となるそうです。

 

これらを見ると
「空きスペースはまだあるけれど、既にリース等で確保されてしまっているから、新しい人が貯蔵するには高いコストが発生してしまう。そうなる前に、費用を払ってでも原油を受け持ってもらった」
ということが分かりますね。
(なので、ニュースなどで「貯蔵タンクが既に満杯なので、価格がマイナス」という解説をたまに見かけますが、それはちょっぴり正確ではないことが分かりますね。)

ちょっとこの先

ニュースなどで「今回マイナスとなった価格はWTI5月先物のみで、6月先物はプラス」といったコメントがあるのは、5月に原油を買っても困るけれど、6月なら少し落ち着いているのでは、と考えている人がまだいるためですね。

 

4/23時点だと、6月先物は少し戻しています。各国/各都市のロックダウンが少しずつ解除されそう、サウジアラビアが協調減産する、中東情勢が不安定になったといったことで、原油の需要が高まりそうといった要素が出てきたためです。

 

但し、まだ当分はコロナウイルス影響がありそうなので、しっかり見ていかなくてはならない状況ですね。

おわりに

またまた、長い文章となってしまいましたが、最後まで読んで下さり大変ありがとうございました。

1つでも「へぇ~」って思って下さる箇所があると嬉しいです。そして、経済ニュースのちょっと裏側を見るのって、少し楽しいかも、なんて思って下さると幸いです☆

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